かつて雑穀を主食として自給自足の暮らしを営んでいた日本各地の山間の集落。訪ねてみると、必ず、塩の道と呼ばれていた旧街道や塩宿の跡がある。遠い昔、海から塩や海藻を運ぶ道すがらに次々と集落が開かれ、山裾や焼き畑の小さな畑には雑穀が栽培されたのだ。そして寄り添うように必ず蕪(かぶら)が栽培された。形は丸い蕪型のものから、大根型まで色々だが、伝統のものは赤い。いつから白くなったのか興味深い。
蕪にはでんぷん消化酵素がたくさん含まれ、油やタンパク質の解毒効果もある。皮ごと煮ると自己分解酵素が働いて簡単にやわらかく煮える。生でも煮てもおいしく食べられる、ビタミンCの宝庫。葉には豊富なカルシウムが含まれる。雑穀と蕪の組み合わせは正に天恵。最近、インカ帝国でも主食穀物のキヌアと一緒にマカという白い蕪の一種が栽培されていたことを知ってさらに納得。
そしてもう1つ、山の作物として重要なのがエゴマだ。エゴマはシソ科の種。シソそっくりの穂の中に4粒のエゴマが実る。それを叩いて落として食べる。煎って擂(す)り、味噌や醤油のたれにして毎食食べたという。現代の食卓に圧倒的に不足しているアルファリノレン酸という必須脂肪酸のかたまりなので、血液をサラサラにして脳や神経の発達を促し、免疫力を高めてくれる。煎って擂りつぶすと粉ガツオの風味になる。何にでも振りかけて食べられるので手軽。
タイのリス族は、餅を作るとき、舟形の臼に煎ったエゴマを入れて擂りつぶしてからT字形の杵でつく。餅がエゴマの油のおかげでくっつかない上に、香ばしくて風味のある餅になるという。
[出典元] 2004年11月「雑穀の書」つぶつぶグランマゆみこ著
[Photographer] 福永仲秋