江戸時代には大坂でも江戸でも、初夏になると天秤棒を担いだ冷たい甘酒売りがあちこちに店を広げたという記録がある。梅雨のじめじめした湿気に負けないように腸内環境を調え、悪性の菌に感染したり、夏バテしない体を作るための保険飲料として飲まれていたという。
甘酒は、穀物の粥に麹(こうじ)を混ぜ込み55度に保って一晩おくとできる。名前は甘酒だがアルコール分はゼロ。砂糖を入れなくても、麹菌の働きでお粥のでんぷんが次々とブドウ糖に変わって驚くほど甘くなる。でんぷんを分解してブドウ糖に変えるこの働きは糖化と言われる。昔は温度管理が大変だったと思うが、現代は炊飯ジャーの蓋を開けてふきんをかけておくとちゃんと55度に保つので、気軽に甘酒造りにチャレンジできる。
麹による糖化は、甘さが増すごとに免疫力を高める成分や、細胞の酸化を防ぎ若さを保つ抗酸化成分が生成され、ビタミンやミネラル、酵素も増えるミラクルな伝統的食品加工術。アミの酸バランスに優れ、食物繊維も豊富。ごはんのパーフェクトな栄養が消化されやすい形に分解され、さらに新たな栄養素が加わった甘酒は、日本人版ヨーグルトともいえる健康乳酸飲料だ。甘酒を甘味料として使えば、大いばりで甘いものが食べられる。なぜなら、健康と美が手に入るから。雑穀で造る甘酒は栄養価もおいしさもさらにぐっと高い。フードプロセッサーでペーストにすると、ヒエ甘酒はコンデンスミルク、アワやキビの甘酒はカスタードクリーム、高キビの甘酒は溶けたチョコ風になる。水でのばせばシェーク感覚の飲み物にもなる。
[出典元] 2004年11月「雑穀の書」つぶつぶグランマゆみこ著
[Photographer] 福永仲秋