食べ物には体を冷やしリラックスさせる陰性のものと、温め緊張させる陽性ものがある。古代中国の哲学には、宇宙の万物は全て相対する陰と陽の性質を持ち、互いにバランスを取り合っているという考え方があり、食べ物の陰と陽を見分けて心と体のバランスを保って生きてきた。陰・陽の感性はアジア各地に根付いている。
クーラーの効果を発揮する陰性な食べ物の代表は植物と水、砂糖、化学物質。反対に、ヒーターの効果を発揮する陽性な食べ物の代表は自然塩、火、動物性の食べ物。
雑穀は主食としてたっぷり食べるのでどちらにも偏らない中性になっている。このすばらしい事実には驚嘆してしまう。適度に陽性な食べ物は、活力と抵抗力のある体と陽気で積極的な心をつくり、適度に陰性な食べ物は体と心をくつろがせ、持久力のある体をつくる。ところが、度が過ぎると心も体もバランスを崩す。
熱帯や亜熱帯の果物やスパイスが一年中輸入され、夏野菜が一年中出回り、季節のわからない加工食品が出回り、寒い国の食である肉食が日常化している現代社会では、食べ物の陰陽度を見分ける知識と、陰陽のバランスを取る調理の技術を身につけないと健康を保つことができない。雑穀料理は、弱アルカリ性でやや陽性の動物としてのヒトの体にふさわしい、活力のあるバランス状態に整えてくれる。
ハト麦は熱帯アジア原産なので、穀物の中では比較的陰性。地中海からインドにかけて広く食べられているやはり陰性なひよこ豆を、陰性なスパイスで煮込んだカレーは、おだやかに夏の体調を調える薬膳料理。ひよこ豆には疲労回復と健康維持効果もある。
[出典元] 2004年11月「雑穀の書」つぶつぶグランマゆみこ著
[Photographer] 福永仲秋