ハト麦は古来イボ取りの妙薬として知られている。体のむくみを取り、肌あれを治して白くすべすべにする薬膳食材としても有名。漢方では粉を薏苡仁(よくいにん)と呼び活用する。体内の異物を追い出す働きが強く、脂肪の新陳代謝を司り、利尿、鎮痛、消炎、排毒等の働きがある。食欲不振にもよい。
その秘密はハト麦に含まれる脾臓(ひぞう)の働きを強化する成分にある。脾臓という臓器はほとんど知られていないが、脂肪代謝の要で、免疫細胞の教育をはじめさまざまな体調調節を担っている。左手を体の横につけ肘を折り、肘の先で真横を触るとあばら骨に当たる。それを後ろに5、6センチたどった骨の内側に脾臓はある。そのあたりに手を当てるだけでちょっとした頭痛や吐き気などは止まる。子供は特に数秒で効果がある。
ハト麦は数珠(じゅず)玉の親戚なので殻が硬い。殻を取る大変さにもかかわらずアジア各地で広く食べられてきた。特に少数民族にとっては重要な作物。タイには細いのや白いのやいろいろな形の数珠玉があり、カレン族はビーズ代わりに数珠玉を衣服に縫いつける。身を守る魔よけの意味もあるらしい。インドネシアではキャッサバとハト麦を混植して栽培、山地ではハト麦、アワ、モロコシ、シコクビエ、が重要な作物だったという。畑で生のまま食べたり、穂ごとまる茹でしてスナック感覚で食べる。あるいは蒸してご飯やおこわに。
麦を丸く太らせた感じの、グレーがかった白の大きな粒は、米の3倍もタンパク質と脂肪を含む。食感はやや粉っぽく、歯に強く当たる感じは小さなお団子のよう、ツンとくる独特な強さを感じる。粒は硬く煮えにくいが、圧力鍋を使えば8〜10分で歯ごたえの残った炊きあがりになる。
[出典元] 2004年11月「雑穀の書」つぶつぶグランマゆみこ著
[Photographer] 福永仲秋