押し麦は大麦を蒸し、ローラーでつぶして乾燥させたもの。大麦は煮るのに時間がかかるので、前日の竈(かまど)の残り火に麦をかけて煮ておき、翌日米と混ぜて炊いた。煮ておいた麦はえまし麦という。これを平らにつぶして乾燥させたものが押し麦。白米に1〜2割混ぜ、自然塩をひとつまみ入れて炊くのがポイント。春に収穫される麦類は、雑穀や米より陰性なので穏やかに体をクールダウンさせる効果がある。麦飯にするとラクに夏を乗り切ることができる。
加工していない大麦は丸麦と呼ばれ、ビールの材料にもなる。縦の筋が胚芽で、どんなに削ってもなくならない。小麦や米のように皮と胚芽に栄養が集中していないので、粒で食べても粉にしても栄養バランスがよい。大麦はコシの強い、弾力のあるツルッとした感触がおいしい穀物。そのまま茹でて粒パスタがわり。水分が多ければ多いなりにどんどん吸ってふくらむのが不思議。やわらかさの段階を炊き分けるとおいしさの幅が広がる。
長崎では押し麦とアワを混ぜて炊いたアワ麦飯がごちそうだった。麦のプルプル食感にアワのモチモチ食感が混ざると引き立て合ってこれだけで上等な炊き込みごはん。夏には、炊きたての熱いアワ麦飯や麦飯に、エゴマを煎って味噌にすり込み、きゅうりと青じそをたっぷりと入れた冷やし味噌汁をかけて食べた。「ひらかし飯」という夏バテ知らずの体を作る伝統ごはんだ。サラサラといくらでも食べられるものだから、「ひらかし飯を食べる前にはふんどしのひもを緩めておけ」と言い合ったという。
[出典元] 2004年11月「雑穀の書」つぶつぶグランマゆみこ著
[Photographer] 福永仲秋